最高裁判所第二小法廷 昭和32年(あ)2338号 判決 1960年9月09日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人海野普吉および同竹下甫の上告趣意第一点について。
所論は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない(なお、第一審判決挙示の証拠によれば、同判示の本件犯罪事実は、共謀および犯意の点を含め、すべて、これを認定するに難くないのであって、その間に所論のような違法があるとは認められない。)。
同第二点について。
所論は原判決の最高裁判所および大審院の各判例違反ならびに審理不尽を主張する。しかし、本件では被告人らにおいて会社が小売人としての資格を持たないという事実を認識していたものと認定されているのであって、その認識がなかったとは認定されていないのである。従って、仮りに被告人らにおいて会社が小売をしてもよいと考えていたとしても、それは法律の錯誤であって、事実の錯誤ではないというべく、もとより、故意を阻却するものではない。この点に関する原判断は相当であって、論旨引用の判例はいずれも本件に適切でない。その余の論旨は単なる訴訟法違反の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
同第三点について。
所論は原判決の憲法三八条一項違反を主張する。同規定が、何人も自己が刑事上の責任を問われる虞れのある事項について供述を強要されないことを保障したものであることは昭和二七年(あ)第八三八号、同三二年二月二〇日大法廷判決、集一一巻二号八〇二頁に示されているとおりであるところ、共同被告人を分離して証人として尋問しても、同証人は自己に不利益な供述を拒むことができ、これを強要されるものでないこと(昭和二八年(あ)第五一七七号、同二九年六月三日第一小法廷決定、集八巻六号八〇二頁参照)および共同被告人でも事件が分離された後、他の共同被告人の証人として証言することは差支えなく、また他の事件の証人としての証言が自己の犯罪に対しても証拠となること(昭和二八年(あ)第三二八〇号、同三一年一二月一三日第一小法廷決定、集一〇巻一二号一六二九頁参照)もまた当裁判所の判例とするところであるから、所論違憲の主張は採用できない。
同第四点について。
所論は量刑不当の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)